#13 相続時の換価分割は確定申告が必要?~所得税・住民税・取得費加算の注意点を税理士が解説

相続で換価分割を行った場合、所得税の確定申告が必要となる場合があります。

今回は実際の事例をもとに、換価分割に関わる所得税申告の注意点を解説します。

換価分割とは?

相続で遺産を分割する際に、換価分割という方法をとることがあります。これは、相続財産を売却して現金化し、その現金を相続人間で分け合う方法です。

たとえば、不動産など分けにくい財産がある場合や、相続税の納税資金が不足している場合などに有効な手段となります。

換価分割のメリット・デメリット

メリットデメリット
相続財産を現金化できるため、公平に分割しやすい売却手続きに手間・時間・費用がかかる場合がある
不動産など分割が難しい資産でも調整しやすい売却益に対して譲渡所得税・住民税が課税される場合がある
相続税の納税資金を確保しやすくなる売却による所得増加で社会保険料・医療費負担に影響が出ることがある
不動産の共有名義を避け、今後の管理トラブルを防げる売却のタイミングによっては、希望金額で売却できるとは限らない
換価分割後は相続人同士の共同管理が不要譲渡所得の計算や取得費加算など確定申告の手続きが発生する

換価分割は、遺産分割協議の中で特に分割が難しいケースにおいて、有効な選択肢となります。

換価分割後は所得税の申告が必要になる

今回ご相談いただいたケースでは、相続財産である社債を相続人間で均等に分けたいというご希望でした。しかし、証券会社の手続き上、社債を分割できない状況でした。 特に社債を保有し続けたいというご要望ではなかったため、換価分割を行いました。遺産分割協議書にも、その旨を明記しました。

税務上、換価分割を行った場合は、各相続人が相続により取得した財産を譲渡(売却)したものとして取り扱われます。そのため、譲渡した年の翌年3月15日までに確定申告が必要となります。

譲渡益が発生する場合、特に個人事業主やフリーランスの方では、所得金額の増加により国民健康保険料や医療費の自己負担が増える可能性があります。事前にシミュレーションを行い、影響があるかどうか確認しておくことをおすすめします。

取得費加算特例の活用

相続または遺贈により取得した財産を、相続した日から3年10か月以内に譲渡した場合、支払った相続税のうち、その財産に対応する部分を譲渡所得の計算上、取得費に加算できます(取得費加算の特例)。

この制度を活用することで、譲渡所得が圧縮され、所得税や住民税の負担が軽減されます。

具体的な、取得費加算の特例の計算方法については、別記事で書く予定です。

特定口座で売却した場合の所得税申告

今回のケースでは、社債を代表相続人の特定口座で売却しました。特定口座年間取引報告書には、代表相続人がすべての社債を売却した旨が記載され、売却代金に対して所得税・住民税が源泉徴収されています。

しかし、便宜的に代表相続人が手続きを行っただけであり、税務上は、各相続人が相続した財産を譲渡したものとして取り扱います。

そのため、取得費加算特例を適用する際には、各相続人が自身の相続税額に基づいて取得費加算額を計算し、確定申告を行うことで、源泉徴収された所得税・住民税の還付を受けることが可能です。

今回のケースでは、相続人は給与所得者であったため、確定申告をしても社会保険料や医療費の負担には影響せず、所得税・住民税の負担を軽減できました。

各相続人自身の特定口座(源泉徴収あり)で売却手続きが行われ、取得費加算特例の適用を受けない場合には、確定申告は不要です。

住民税の申告はどうなる?

ここからは少しマニアックなお話です。

今回、代表相続人Aさんの特定口座で売却を行い、Aさんの住所地であるA市に住民税が源泉徴収(仮払い)されました。
一方、相続人BさんはB市在住です。Bさんの住民税はどう申告するのか疑問が生じます。

現行制度では、所得税の確定申告内容を基に各市区町村で住民税が計算されます。したがって、確定申告書では譲渡所得の金額や源泉徴収税額を各自按分(例えば1/2ずつ)して記載します。

たとえA市で源泉徴収された住民税であっても、Bさんの申告上はB市へ源泉徴収されたものとして申告するしか方法がありません。
(実際には、その後、市町村間で過不足の調整が行われるものと考えられます。)

確定申告時に準備しておくべき資料

税務署や市区町村から照会が入ることも考えられるため、確定申告時には、下記のような資料を添付すると手続きがスムーズです。

・遺産分割協議書の写し

・売却に関する資料

まとめ : 換価分割後の税務は早めの相談を

このように、換価分割を行った場合には所得税の申告が必要となるケースがあります。
また、取得費加算の特例を適用することで税負担が軽減できる可能性もあるため、換価分割を検討する際はぜひ税理士にご相談ください。